介護施設・事業所の備蓄管理の実務―何を、どれだけ、どう管理するか
厚生労働省のひな形で業務継続計画を作った。備蓄品リストの欄も埋めた。それでも、この量で足りているのか確信が持てない。
確信が持てないのには理由があります。ひな形の中に、日数の答えが二通り書かれているからです。
3日分か、7日分か──ひな形の中で数字が割れている
本文の解説欄にあるのは3日です。行政支援開始の目安である被災後3日目まで、自力で業務継続するため備蓄を行う、と説明されています。72時間で外部からの支援が届き始めるという想定に基づくもので、広く使われている数字です。
ところが同じひな形の飲料水の項に進むと、計算式はこうなっています。
3リットル/人/日 × ●人分(職員を含める) × 7日(最低3日)
7日が基本で、3日は下限という書き方です。備蓄品リスト(ひな形では様式6-災害)の食品欄にも、7日分の献立表を作成し必要な食品を考える、と書かれています。解説文を読んで3日で組んだ計画と、計算式に従って7日で組んだ計画が、同じひな形から生まれる。同じ規模の施設で備蓄量が倍以上違うことがある原因の一つが、ここにあります。
どちらを採るべきかは、同じひな形の別の箇所が示しています。ライフラインの復旧想定は、震度7で電力1週間、水道3週間、都市ガス5週間。東日本大震災の実績として、電気は3日後に52%、1週間後に99%が復旧し、水道は7日後の時点で50%という数字が挙げられています。水道が3週間止まる前提を書きながら、備蓄は3日分で足りるとする。この組み合わせは計画として噛み合いません。

令和8年熊本地震では、発生から1週間が経った8月4日の時点でも、高速道路などの通行止めが続き、支援物資の遅れが課題として残っていました。地震そのものは7月28日16時27分、宇城市と八代郡氷川町で震度7を観測しています。対応はまだ続いており、教訓として整理するには早い段階です。それでも、3日で支援が届くという前提が置ける地域とそうでない地域があることは、この時点で見えています。
自施設をどちらに置くかは、立地で決まります。幹線道路が一本しかない、橋を渡らないと市街地に出られない、山間部で迂回路がない。こうした条件があるなら、7日を基本に置くほうが実態に合います。市街地で搬入経路が複数あるなら、3日を最低線として、水だけ7日分に厚くするという組み方もできます。
計画に書くときは、日数を数字で明記してください。「3日分程度」ではなく「飲料水は7日分、その他は3日分」のように品目ごとの日数まで書く。備蓄品リストの必要量がその日数で計算されていれば、担当者が交代しても算定根拠が残ります。
何人分を、何日分か──掛け算の左側が揃わない
備蓄量の計算でつまずくのは、日数より人数のほうです。
ひな形の計算式は、この点をはっきり書いています。
3リットル/人/日 × ●人分(職員を含める)× 7日。
括弧の中の三文字が、実務では抜け落ちます。定員50名の特別養護老人ホームなら50名分、という組み立てになっている計画をよく見かけます。
災害時に施設に残るのは入所者だけではありません。発災直後は、そのとき勤務していた職員がそのまま留まります。交代要員が来られなければ、24時間態勢で複数日を過ごすことになる。自宅が被災した職員が家族を連れて避難してくる場合もあります。ひな形も、職員の休憩・宿泊場所の確保や、利用者向けだけでなく職員向けの備蓄を揃えることが重要だと書いています。
人数の置き方は、定員に参集見込みの職員数を足すのが基本です。定員50名で、災害時に参集できる職員を10名と見込むなら60名。
飲料水 60名 × 3リットル × 7日 = 1,260リットル(2リットルのペットボトルで630本)
主食 60名 × 3食 × 7日 = 1,260食分
3日分で組むなら540リットル、270本になります。
ただし主食の1,260食分は、機械的に置く前に一度止まってください。その食事を誰が配って誰が介助するのか。参集職員10名で3食を回すなら、調理と配膳と介助と片付けが1日3巡します。電気も水も止まった状態で、これが7日続きます。
災害時に3食必要なのかという意見もあると思います。しかし、減らすべきは回数ではなく、手間のほうです。高齢者は食事から摂る水分の割合が大きく、服薬を食後に設定している利用者も多い。回数を減らすと、脱水と服薬の乱れが同時に起きます。3食のうち1食を高カロリーゼリーや栄養補助飲料に置き換えれば、配って回収するだけで済みます。備蓄品リストの1食分を、そうした品目に振り替えるだけの話です。
何食を、どの形で出すか。ここは発災してから決められません。管理栄養士がいる施設なら、7日分の献立を平時に作っておく。ひな形が求めているのも、まさにこの献立表です。ひな形は3食とは書いていません。何食にするかは施設が決める設計事項で、そこを決めていない計画が多く見受けられます。

参集見込みを何名にするかは、職員名簿から出せます。徒歩や自転車で30分以内に来られる職員が何名いるか。平時に一度数えておけば済む作業で、しかも安否確認の連絡順を決めるときにも使えます。夜勤帯に発災した場合は参集がさらに遅れるので、その前提も別に置いておく。
この人数と日数が、リストの中で揃っているかを確認してください。飲料水は60名・7日で計算しているのに、食料は50名・3日分、オムツは入所者数のみ。備蓄品リストの必要量を縦に見て、同じ人数と同じ日数で計算されているかを確かめてください。品目ごとに担当者が違う場合ほど、食い違いが残ります。
食事形態の内訳も、この段階で人数に落とします。60名を一括りにすると、常食が食べられない利用者の分が消えます。入所者50名の内訳が、常食30名、軟菜食10名、ソフト食・ペースト食7名、経管栄養3名だとします。ここに常食の職員10名が加わるので、常食は40名分。この内訳ごとに7日分を積みます。ひな形の備蓄品リストも、常食、軟菜食、ソフト食/ペースト食/ゼリー食の3区分で考えるよう求めています。
近隣住民の受け入れを想定している施設は、その分を上乗せするか、上乗せしないなら計画にそう書いてください。福祉避難所の指定を受けている場合は受入可能人数が決まっているはずなので、その人数分をどう賄うのかまで書いておく。指定を受けていなくても、被災時に地域の人が支援を求めて来ることはひな形も想定しています。
ひな形のリストを埋めるだけでは、揃わないものがある
ひな形の備蓄品リストの食品欄には、20の品目があらかじめ書かれています。飲料水、ジュース類、お茶、保存食(アルファ化米)、無洗米、レトルト粥、缶詰、経管栄養食、高カロリー食、インスタント食品、栄養ドリンク。紙コップ、割り箸、ラップ、ポリ袋。カセットコンロ、ホットプレート、屋外用コンロ、調理器具。
よくできたリストですが、介護施設が必要とするものが抜けています。
とろみ剤の行がありません。食品欄のどこにも出てこない。同じリストの但し書きは、7日分の献立表を作成し、常食、軟菜食、ソフト食/ペースト食/ゼリー食で考えるよう求めています。食形態を3区分で検討しろと指示しておきながら、品目がそれに対応していない。アルファ化米とレトルト粥と缶詰では、ソフト食もペースト食も作れません。嚥下調整食のレトルト製品と、水分にとろみをつける増粘剤を、自分で書き足す必要があります。
常用薬の行もありません。医薬品欄にあるのは消毒剤、脱脂綿、絆創膏、包帯、三角巾の5つで、応急手当の想定です。降圧剤、血糖降下薬、抗てんかん薬、向精神薬。数日途切れると状態が動く薬を飲んでいる利用者は、どの施設にもいます。入所施設では服薬管理を施設が担っているので、これは施設側の課題になります。
ただし、処方薬は日数分を備蓄という形で持てません。ここに書くのは備蓄量ではなく、協力医療機関と処方について何を取り決めているか、お薬手帳や薬剤情報提供書をどこに保管して誰が持ち出すか、になります。避難先で服薬内容を伝えられる状態にしておくところまでが備えです。
排泄用品は、日数の前提が食料とずれがちです。オムツとパッドは別の区分に入るため、食料は7日分で計算したのにオムツは3日分、という状態が起きます。断水すると尿とりパッドの交換頻度が上がるので、平常時の使用量より多く見積もる。簡易トイレの数も、利用者だけでなく職員分を含めて数える。
書き足したら、自施設で追加した品目だと分かるようにしておいてください。ひな形をそのまま使っている事業所は多いので、追加した行があること自体が、自施設の利用者を検討した証跡になります。
研修で各地の計画を見てきましたが、ひな形の穴埋めを終えた時点で策定完了としている施設が大半です。埋まっているかどうかと、使えるかどうかは別の話で、見分ける基準は量ではありません。そのリストが、自分の施設の利用者を見て作られたかどうかです。経管栄養の利用者が1人もいないのに経管栄養食の行が残っている。逆に、ペースト食の利用者が10人いるのにその行がない。この2つは、どちらも同じことを示しています。
どこに置くか──分けて置くと、どこに何があるか分からなくなる
保管場所には相反する条件が求められます。すぐ取り出せること、災害時にも無事であること。この二つを一か所で満たすのは難しいので、分けて置くことになります。
すべてを一か所に集めると、その場所が被災した時点で全量を失います。1階の倉庫と2階の空き部屋に半分ずつ、といった分け方が基本です。浸水想定区域にかかっている施設なら、想定水位より上の階に主要な分を置く。地震だけを想定して1階の倉庫にまとめている計画は、水害で全滅します。
場所の条件は三つです。構造的に安全なこと。古い建物では耐震性に不安のある部屋を避け、水害リスクのある地域では浸水想定より高い場所を選ぶ。温度と湿度が保たれること。食料品と医薬品は高温多湿を避けます。直射日光の入る部屋や暖房設備の近くは向きません。職員がすぐ入れること。施錠している倉庫なら、鍵の保管場所と開錠できる職員を計画に書いておく。夜間や休日に発災したとき、鍵を持っている職員が来られなければ備蓄は無いのと同じです。
置き方では、先入れ先出しができる並べ方にします。期限が近いものを手前、新しいものを奥。カテゴリー別に色分けしたラベルを貼っておけば、混乱した状況でも探せます。重いものは下段。2リットルのペットボトルは1箱でも相当な重さになるので、台車が入る通路を確保しておく。
分けて置くと、必ず起きるのが、どこに何があるか分からなくなることです。備蓄品リストには保管場所を書く欄がありますが、「倉庫」とだけ書かれている計画が多い。2か所に分けているのに1か所しか書いていないこともあります。フロアごとに置いているなら、フロアごとの数量まで書く。ここが書かれていないと、発災時に探す時間が発生します。
分散させた分の点検を、いつ誰がやるかも決めておいてください。1階は誰、2階は誰、という形にしておかないと、片方だけ期限が切れたまま残ります。

入れ替え続けなければ、備蓄は目減りする
備蓄は置いた時点では完成しません。賞味期限も使用期限もあるので、入れ替え続けて初めて機能します。ひな形も、期限のある備蓄品については担当者を決めて定期的にメンテナンスを行い、リストを見直すよう求めています。
計画本文に「備蓄品は年2回点検する」と書いてありながら、備蓄品リストに点検日を書く欄も、点検した人の名前を書く欄もない。この形の計画をよく見ます。定めたルールを、その文書自身が担保できていない状態です。
点検日と、点検した人の名前。この二つを書く場所を、備蓄品リストの中に作ってください。ひな形の様式なら保管場所と担当者の欄の隣に足せますし、独自の書式でも同じことです。点検のたびに1行書き足していけば、履歴がそのまま残ります。運営指導で備蓄について聞かれたとき、説明の根拠になるのはこの履歴です。
今いくつあるかを記録する場所も作ってください。点検の日に、実際の数量を書く。必要量と並べて記録すれば、不足が続いている品目が見えます。3回続けて足りないままなら、その品目は補充の仕組み自体に問題があります。
入れ替えの方法は、日常の在庫と備蓄を分けないのが実務的です。オムツやパッド、とろみ剤のように毎日使うものは、平常時の在庫を多めに持ち、古いものから使って補充する。倉庫に封をして置いておくより期限切れが起きません。日常提供している食事の献立に、レトルトのおかゆやゼリー食を組み込んでおけば、備蓄と日常の在庫が同じものになります。
普段使わないアルファ化米やレトルト粥は、期限の半年前を目安に消費先を決めておく。訓練に使うのが一番無駄がありません。停電を想定してカセットコンロで湯を沸かし、実際に作って食べてみる。調理方法を職員が確認でき、利用者の反応も見られる。訓練の実施記録として残せば、研修・訓練の年間回数にも算入できます。備蓄の入れ替えと訓練の実施が一度で片付きます。
そして年に一度、リストそのものを見直します。利用者の入れ替わりで食形態の内訳が変わっていないか。職員が増減して、参集見込みの人数が古くなっていないか。点検は量を確認する作業で、見直しは前提を確認する作業です。この二つは別物で、点検を何回やっても前提はずれたままになります。見直した結果は計画本文の更新履歴にも書き戻す。備蓄量を変えたなら、それは計画の改訂です。
備蓄リストの前提人数が、計画本文と合っていますか
介護BCP教育研究所では、BCP文書のなかにある矛盾と抜け漏れを洗い出すBCP診断を行っています。
品目ごとに人数・日数の前提が食い違っていないか、点検日を記録する欄が様式にあるかといった視点でチェックします。詳しくは診断サービス(https://kaigo-bcp.jp/shindan/)のページをご覧ください。


