福祉用具貸与のBCPと訓練シナリオ|停電時に、どの利用者から動くか
福祉用具貸与のBCPをひな形で作った。安否確認の手順も、連絡体制も、備蓄も埋めた。それでも、この計画で災害の日に動けるのかと聞かれると、答えに詰まる。
詰まるのは当然で、ひな形は業種を問わない共通の形で作られています。福祉用具貸与でしか起きないことは、自分で書き足すしかありません。そして、この業態でしか起きないことの中心にあるのが電源です。
停電したとき、真っ先に向かうべき利用者が決まっているか
停電が起きたとき、貸与事業所が電源を配って回ることはできません。発電機の数も、車両も、道路の状況も足りない。できるのは、電源が要らない状態へ移す提案を、早く出すことです。
リストが、システムの中にしかない
エアマットや特殊寝台のように電源を要する用具を、誰に何台貸しているか。これを把握しているのは貸与事業所です。ケアマネジャーも用具の種類は把握していますが、機種や設置の状況までは見ていないことがあります。
そのリストが、貸与管理システムの中だけにある状態になっていないでしょうか。事業所が停電すれば開けませんし、サーバーが被災すれば復旧まで参照できません。紙に印刷して事業所とは別の場所に置くか、担当者の端末にオフラインで保存しておく必要があります。
紙で持つ場合、全利用者の一覧では厚くなりすぎます。電源を要する用具の貸与先だけを抜き出した一覧を、別に作ってください。氏名、住所、貸与している用具と機種、連絡先、そして担当ケアマネジャーの事業所名と連絡先。この5つがあれば動けます。
同じ特殊寝台でも、切迫度は利用者ごとに違う
用具の種類だけでリストを作ると、優先順位がつきません。
特殊寝台を借りていても、リモコンをほとんど使わず、高さを固定したまま使っている利用者は少なくありません。この方は停電しても困りません。一方で、背上げをしなければ食事も排痰もできない利用者は、電源が止まった時点で待ったなしになります。同じ用具を借りていて、切迫度がまったく違う。
この違いを知っているのも、貸与事業所です。モニタリング訪問で実際の使い方を見ているのは担当者で、ケアマネジャーの月1回の訪問では、そこまで見えないことがあります。
だからリストには、用具の種類だけでなく、その用具への依存度を書いてください。背上げが食事に必須か、体位変換が自力でできるか、離床にリフトを使っているか。3段階でも構いません。災害時に優先するのは、電源を要する用具を借りている人ではなく、その用具が止まると生活が止まる人です。
機種によって、停電時にできることが違う
もうひとつ、平時に把握しておくことがあります。貸与している機種が、停電時に何をできるのか。
介護ベッドの停電時の対応は、メーカーと機種で分かれます。停電用のハンドルをアクチュエーターの溝に差し込み、背上げや高さを手動で操作できる機種があります。停電時に使えるバッテリーをオプションで用意しているメーカーもあり、こちらは電源コードから常時充電されるので、停電しても特別な操作は要りません。
一方で、緊急解除レバーを備えた機種は、背下げと脚下げをして水平に戻すことしかできません。下げる方向にしか使えないので、背上げが必要な利用者には解決になりません。レバーを使った後、電力復旧までに元の位置へ戻す必要がある製品もあります。そして、停電時に何もできない機種もあります。
自事業所の在庫を、この4区分で仕分けてください。手動操作ができる、バッテリーで動く、水平に戻せるだけ、何もできない。機種名を控えて、取扱説明書で確認する。オプション品で対応できる機種なら、何台分を確保しておくかも決められます。
この機種の区分と、さきほどの依存度を掛け合わせると、優先順位が出ます。背上げに依存している利用者が、停電時に何もできない機種を使っている。この組み合わせが最上位です。逆に、リモコンを使っていない利用者なら、機種が何であっても急ぎません。

「行く」「行かない」を、誰がどの情報で決めるか
停電の連絡が入った。台風が近づいている。このとき、訪問するかどうかを誰が決めるのか。決まっていなければ、その場にいた人が判断することになります。
訪問系より、判断が重い
福祉用具貸与の緊急対応は、身ひとつでは行けません。代替のマットレスを持っていくなら車両が要り、特殊寝台の調整なら工具が要り、搬入や引き上げなら人手が要ります。訪問介護なら自転車で行ける状況でも、貸与事業所は道路が使えなければ動けません。
そのぶん、行くと決めた後の拘束時間も長くなります。1件に1時間かかるなら、午前中に回れるのは3件。優先順位をつけていなければ、近い順に回って、いちばん切迫している利用者が最後になります。
警戒レベルで基準を決めておく
判断の材料は、気象情報と道路状況と職員の参集状況の3つです。このうち気象情報は、令和8年5月29日から名称が変わりました。
令和6年6月の「防災気象情報に関する検討会」の提言を踏まえた改定で、河川氾濫・大雨・土砂災害・高潮の情報が、避難情報の5段階の警戒レベルに対応する形へ整理されています。名称そのものにレベルの数字が付き、大雨警報は「レベル3大雨警報」になりました。従来の洪水警報と洪水注意報は廃止され、洪水予報河川は「河川氾濫」、それ以外の中小河川は「大雨」として伝えられます。レベル4相当の情報は「危険警報」として発表され、土砂災害警戒情報は「レベル4土砂災害危険警報」に変わりました。
計画には、この名称で基準を書いてください。レベル3で新規の搬入と定期のモニタリング訪問を止め、緊急対応のみに絞る。レベル4で全ての訪問を中止し、電話での状況確認に切り替える。数字はこの例のままでなくて構いませんが、どのレベルで何を止めるかが対応していることが必要です。「警報が出たら注意する」という書き方では、判断の材料になりません。
判断する人も決めます。管理者が不在の場合の第2順位まで。夜間や休日に停電の連絡が入ったとき、誰の携帯が鳴るのかまで書いておく。
行けないと決めたときに、何をするか
中止を決めた後に何をするか。計画に書かれていないのは、たいていここです。
行けないなら、電話で何を伝えるかを決めておきます。エアマットが止まっている利用者には、送風が止まった状態でも一定時間は体圧分散性が残る機種があるので、まず機種を確認する。そのうえで、家族や訪問介護の職員に体位変換の頻度を上げてもらえないか相談します。特殊寝台で背上げができない利用者には、背当てクッションで代替できるかを確認する。
ただし、クッションでの代替は同じにはなりません。誤嚥のリスクがある方では角度の安定が必要で、クッションを当てただけでは30度なのか45度なのかが定まりません。姿勢が崩れれば仙骨部に圧が集中して、褥瘡のリスクも上がります。代替できるかどうかは利用者ごとに違うので、この判断は担当ケアマネジャーと共有したうえで進めてください。
これらの提案は、災害が起きてから考えるものではありません。誰にどの代替手段が使えるかを平時に整理しておけば、電話1本で伝えられます。発災の当日に、代替の提案をケアマネジャーへ先に出せる事業所は多くありません。そこができると、その後の関係が変わります。

倉庫が使えなくなる想定があるか
福祉用具貸与は、在庫を持つ事業です。特殊寝台、車いす、リフト、マットレス。他の介護サービスにない条件で、そのぶん倉庫が被災したときの影響が大きくなります。
重量物の固定が、計画に書かれていない
特殊寝台を立てて保管しているラックが倒れれば、その下にある在庫が使えなくなります。作業中の職員がいれば、命に関わります。
それなのに、地震編の平常時の対応に書かれているのが「棚の固定」「書類の落下防止」といった事務所の話だけになっていないでしょうか。事務所と倉庫では、置いてあるものの重さが違います。ラックのアンカー固定、高所への平置きをやめること、キャスター付きの用具のストッパーとベルト。倉庫の状況に合わせて具体的に書いてください。
書いたら、写真を撮って計画に添えるか、保管場所の見取り図を1枚作っておく。文章だけだと、次に読む人が現物と照合できません。
倉庫が使えないと、新規の契約が結べない
倉庫の被災で滞るのは、在庫の提供だけではありません。
災害の後は、退院にともなう新規貸与や、住環境が変わったことによる用具の変更が増えます。ところが契約書と重要事項説明書がシステムからしか出力できない状態だと、停電や通信断でその手続きが取れません。ブランクの帳票を何セットか印刷し、事務所とは別の場所に保管しておくようにして、手書きで契約できる状態にしておけば、電源が戻らなくても新規の貸与を始められます。
貸与中の用具の所在も同じで、誰に何を貸しているかがシステムの中だけにあると、停電時に電源を要する用具の利用者を特定できません。電源を要する用具の貸与先を抜き出した一覧を、印刷して別の場所に置いてください。
自事業所だけで抱えない
倉庫が全損した場合、自事業所の在庫では対応できません。他店舗を持つ事業者なら被災地外の拠点から融通する取り決めを、単独の事業所なら同業他社との応援協定を検討します。
協定を結ぶなら、何を融通するのかまで具体的に決めてください。商品なのか、人員なのか、請求業務の代替なのか。「相互に協力する」とだけ書かれた協定書では、いざというときに何を頼めるのかが分かりません。エアマット5台、特殊寝台3台といった台数まで書いておくと、相手も準備ができます。
法人本部から配られたひな形を使っている事業所は、拠点ごとに埋めるべき欄が空いていないかを確認してください。全国共通の記載のままでは、自拠点の立地リスクも在庫数も反映されません。倉庫が浸水想定区域にかかっているかどうかは、拠点ごとに違います。
訓練は、何をすればいいのか
福祉用具貸与で訓練が進まないのは、避難訓練の形が想像できないからです。職員が事業所に集まり、避難経路を歩く。この形を思い浮かべると、自分たちに当てはまらないと感じます。
必要なのは避難の訓練ではなく、判断の訓練です。会議室に集まって1時間、想定を配って役割ごとに何をするかを話し合う。この形で成立します。ここでは、そのまま使えるシナリオを2本お示しします。
シナリオ1 停電が発生した朝
想定 平日の午前6時、市内全域で停電が発生。復旧の見通しは立っていない。道路の被害はなく、車両は動く。参集できる職員は3名。
話し合う設問は3つです。
1 電源を要する用具の貸与先のうち、上位10件をどの順に回るか
2 それぞれの利用者に、電話で何を伝えるか
3 誰に連絡するか(本人・家族・ケアマネジャー)
1つ目は、実際に一覧を出して並べてみてください。用具の種類だけで選ぶとエアマットの利用者が上位に来ますが、依存度と機種の区分を掛け合わせると順序が変わるはずです。
2つ目は、機種の確認から入ります。エアマットなら、送風が止まった状態での体圧分散性が機種によって違います。特殊寝台なら、手動で操作できる機種か、水平に戻せるだけの機種か、何もできない機種か。背上げが必要な利用者に何もできない機種を貸与しているなら、その日のうちに訪問して代替を検討する対象になります。
3つ目では、停電で固定電話が使えない世帯があること、携帯の充電が持たないことも想定に入れてください。誰の携帯が何時間持つかは分かりませんから、早い時間帯に連絡を済ませる判断も出てきます。
話し合った結果は、そのまま計画に書き戻します。優先順位の付け方、伝える内容、連絡の順序。この3つが決まれば、訓練により計画の見直しをしたことになります。
シナリオ2 感染した利用者宅から用具を引き上げる
想定 新興感染症の発生により、保健所が濃厚接触者の特定と行動制限を行う体制が取られている。貸与中の利用者が感染して入院し、特殊寝台とエアマットの引き上げ依頼が入った。
話し合う設問は3つです。
1 防護具をどこで着け、どこで外し、どう持ち帰るか
2 搬出した用具を、車のどこに積み、事業所のどこに置くか
3 消毒前と消毒済みの用具を、どう区別するか
1つ目は、玄関先か車内かで手順が変わります。使用済みの防護具を入れる袋を車に積んでいるか、そこまで確認してください。
2つ目で詰まりやすいのが、事業所に戻った後です。消毒前の用具を置く場所が決まっていないと、そのまま倉庫に入ることになります。
3つ目は、区画を分けるか、札を付けるか。決めたら、次に倉庫へ行ったときに実際の区画を確認してください。図面に線を引いて訓練記録に添付しておけば、後から現物と照合できます。
消毒の手順も、この場で確認します。特殊寝台のマットレスやエアマットのカバーは、どこまで分解して何で拭くのか。メーカーが推奨する消毒方法があるはずなので、取扱説明書を持ってきて読む。訓練の場で分からなければ、それが計画の抜けです。
そして、保健所の指示を待って引き上げるのか、待たずに動くのか。感染症編が5類移行後の平時対応だけで書かれていると、この判断の根拠がどこにもありません。行政の関与が復活する場合の記載があるかどうかも、この訓練で確認できます。
記録に残す5項目
訓練を実施したら、記録に残します。解釈通知が求めているのは実施内容を記録することで、項目までは定められていません。実務で必要になるのは、日時、参加者、想定した事象、話し合って決まったこと、計画のどこに反映したかの5つです。
想定した事象の欄には、感染症か自然災害かが判別できるように書いてください。「災害対応訓練」とだけ書かれていると、どちらを実施したのか読み取れません。福祉用具貸与の研修・訓練は年1回以上で、感染症と自然災害のそれぞれについて必要になります。年間の記録を並べたときに、両方の実施が確認できる状態にしておいてください。
最後の1項目が、訓練と見直しを繋ぎます。話し合って決まったことを計画に書き戻し、更新履歴に「◯年◯月◯日実施の訓練による」と記す。年に1回の訓練が、年に1回の見直しの記録を生みます。

電源を要する用具の利用者が、計画のなかで特定できていますか
介護BCP教育研究所では、BCP文書のなかにある矛盾と抜け漏れを洗い出すBCP診断を行っています。優先順位の基準が用具の種類だけになっていないか、倉庫の重量物対策が計画に書かれているかなど、福祉用具貸与ならではの視点でチェックします。詳しくは診断サービス(https://kaigo-bcp.jp/shindan/)のページをご覧ください。


