介護施設の停電対策の実務―非常用電源は機器を選ぶ前に決めることがある
停電への備えを考え始めて、蓄電池や発電機の情報を集めたものの、容量の単位も価格帯も幅がありすぎて、どれが自分の事業所に見合うのか判断がつかない。補助金の話も出てくるけれど、対象になるのかどうかもよく分からない。そうやって調べているうちに時間だけが過ぎて、BCPの「電気が止まった場合の対策」の欄が空いたまま、という状態に心当たりはないでしょうか。
厚生労働省のひな形を読み直して、この順番でつまずくのは無理もないことが分かりました。厚労省のひな形は機器の選定から入る作りにはなっておらず、その手前に置かれた判断から始まるように組まれていたからです。そこを飛ばして機種の比較から入ると、比べる基準がないまま情報だけが増えていき、どうすれば良いのかわからなくなってしまいます。
ここでは、厚労省のひな形をもとにBCPを策定したことを前提に、具体的な停電対策について解説していきます。
非常用電源は、機器選びの前に要否の判断から始まる

厚生労働省の自然災害ひな形の「2.2 電気が止まった場合の対策」は、自家発電機が設置されていない場合と、設置されている場合のふたつに分けて書かれています。発電機が設置されていない事業所に対してひな形が求めているのは、機種を選ぶことではなく、そもそも非常用自家発電機が必要かどうかを検討することでした。
その判断軸として挙げられているのが、医療的配慮が必要な入所者・利用者の有無です。ひな形は具体例として、人工呼吸器、酸素療法、喀痰吸引を挙げており、あわせて、協力病院等との連携状況を踏まえて要否を検討するようにと書かれています。つまり、電源が途絶えたときに生命に直結する利用者が自事業所にいるのか、いるとして、その人を医療機関に搬送できる関係があるのかという2段階の問いになっています。
この順番になっているのは、停電で最初に困るのは、設備ではなく人だからという理由です。吸引器や在宅酸素を使っている利用者がいる事業所と、そうでない事業所とでは、必要な電源の性格がまったく違います。前者は数時間の空白も許されないため、切れ目のない供給が要件になります。後者であれば、照明と通信さえ確保できれば当座はしのげる場合が多く、そこに数百万円の設備を検討する必要はありません。同じ「停電対策」という言葉でも、中身は事業所ごとに別のものになります。
ですから最初にやるべきなのは、利用者名簿を電源の観点でチェックすることです。電気がなければ使えない機器を使用している利用者を書き出し、その機器が何時間止まると危険な状態になるのかを確認、人工呼吸器や在宅酸素であれば、機器側の内蔵バッテリーの持続時間と、外部バッテリーの有無まで把握しておく必要があります。喀痰吸引については、足踏み式や手動式の吸引器で代替できるかどうかも、この段階で看護師に確認しておくようにしましょう。
その結果として、生命に直結する利用者がいないと分かれば、それも立派な検討の結果です。ひな形が求めているのは発電機を持つことではなく、要否を検討した形跡を残すことなので、検討の末に導入しないという結論に至ったのであれば、その理由を書いておけばよいのです。逆に、該当する利用者がいると分かったのであれば、次に決めるのは機種ではなく、何日の停電を想定するかになります。
何日の停電を想定するのか
必要な電源の規模は、停電が何日続くかを決めなければ計算できません。この日数についても、ひな形の中に想定が書かれています。
ひな形の補足13には、「震度6を想定した場合に停電3日・断水7日」、「震度7を想定した場合に停電7日・断水3週間」という数字が例示されています。様式7-災害の時系列表にも、電気の復旧が3日目というのは震度6の想定であり、震度7では7日目に復旧する想定だという注記が入っています。ガイドラインの復旧想定でも、震度7の地域では電力が1週間、水道が3週間、都市ガスが5週間でほぼ復旧するとされています。
もう少し細かい実績値も、ひな形に記載されていました。東日本大震災について厚生労働省が発表した報告書によれば、電気は3日後の時点で52パーセント、1週間後に99パーセントが復旧しました。つまり半分は3日で戻る一方、残りの半分は1週間近くかかったということです。自事業所がどちらに入るかは、事前には分かりません。
ここで大事なのは、この日数を自分で記入する欄がひな形にあるという点です。ハザードマップで自事業所の想定震度を調べ、その震度に応じた復旧日数を補足13と様式7-災害に書き込む。非常用電源の要件は、この記入した日数から逆算して決めることができます。震度6を想定して停電3日と記入したのであれば、必要なのは3日をしのぐ電源です。震度7の想定地域であれば、7日を前提に考えることになります。
備蓄の日数を検討したときと同じ考え方で計算するということです。備蓄の場合は、行政支援が届き始めるまでの3日と、ライフラインが戻るまでの7日という二つの物差しがありました。電源についても、支援が届けば燃料や代替機の調達が可能になる一方、系統電力そのものが戻るのは別の日程です。発電機を持っていても燃料が続かなければ発電できませんから、燃料の調達が可能になる時期と、電力が復旧する時期の両方を見ておく必要があります。
そのうえで、想定日数をそのまま「発電機で何日もたせるか」に読み替えないほうがよい場面もあります。7日間の連続稼働を電源設備だけで賄おうとすると、燃料の備蓄量も費用も現実的でなくなることが多いためです。実際の設計では、最初の数時間から数日を自前の電源でしのぎ、その間に利用者の搬送や事業所の一時休止といった判断に移る、という組み立てになります。何日ぶんの電源を持つかという疑問は、何日目に別の手段へ切り替えるかという判断と必ず対で考えなければなりません。
発電機には、ひな形自身が書いている3つの限界がある

非常用電源の情報を集めていると、発電機を導入すれば停電対策は完了するかのような印象を受けます。ところが厚生労働省のひな形には、発電機について注意を促す記述があります。そこには、発電機は無限に連続運転できるものではない、として、3つの点が挙げられています。
ひとつ目は燃料です。発電機を動かすには燃料が要り、その燃料を災害時に入手できるかどうかを検討する必要があるということです。平時であれば給油はガソリンスタンドに行けばいつでもできますが、大規模停電の局面では給油所そのものが動きません。停電すれば給油機のポンプが止まりますし、営業していても長い列ができます。ガソリンを備蓄しておくにしても、ガソリンは消防法の規制を受けるため、事業所で保管できる量には制限があります。ひな形の補足10には、燃料の種類と、ガソリンスタンドとの優先供給協定を記入する欄が設けられているように、協定という言葉が出てくるのは、平時のうちに調達の道筋をつけておかなければ災害時には手に入らない、という前提があるからです。
ふたつ目は、連続稼働時間そのものに限界がある機種が存在することです。発電機は、燃料さえ足せばいつまでも回り続けるとは限りません。放熱やオイルの消耗の関係で、一定時間ごとに停止させて休ませる必要がある機種もあります。カタログに書かれた連続運転時間は、燃料満タンでの稼働時間を指している場合と、機械として許容される連続運転の上限を指している場合があり、両者は別のものです。
3つ目は、実務では最も見落とされやすい点です。ガソリンの小型発電機の場合、給油時には発電機を止めなければなりません。稼働したまま給油すると引火の危険があるためです。これが何を意味するかというと、給油のたびに電気が切れるということです。そのため、数時間ごとに電源が落ちる前提で使う機器と、切れてはいけない機器とを、あらかじめ分けておかなければなりません。人工呼吸器のように瞬断も許されない機器を発電機だけで支えようとすると、この給油のたびに問題が生じることになります。
こうした制約を並べると、蓄電池やポータブル電源の性格の違いも整理できます。蓄電池は燃料を必要とせず、屋内で使えて、給油のための停止もありません。切れ目のない供給という点では発電機より優れています。半面、蓄えた容量を使い切れば終わりで、系統電力が戻らないかぎり再充電できません。つまり蓄電池は時間の長さに弱く、発電機は連続性に弱いという、逆の弱点を持っています。
この対比から、組み合わせて使うという発想が出てきます。瞬断が許されない機器は蓄電池やポータブル電源で受け、その間に発電機を起動する。給油で発電機を止めるあいだも、蓄電池側で持たせる。ひな形が代替の電源として自動車のバッテリーや電気自動車を挙げているのも、同じ考え方の延長にあります。近年の電気自動車は給電機能を備えたものが多く、事業所の車両がそれに該当するなら、すでに一定容量の蓄電池を保有していることになります。
なお、ポータブル発電機を屋内で使うことはできません。一酸化炭素中毒の危険があるため、必ず屋外で運転する必要があります。事業所の建物構造によっては、屋外で運転して屋内へ電気を引き込む経路を確保できるかどうかが、購入前に確認すべき条件になります。ひな形の備蓄品の様式に電源リールが品目として挙がっているのは、この引き込みを想定してのことです。発電機本体、燃料、オイル、電源リールが一組で並んでいる点は、購入計画を立てるときの参考になります。
何に電気を回すかを決めておく
電源の容量が決まっているということは、すべての機器を同時に動かせないということです。何を生かして何を諦めるかを、停電が起きてから考えることはできません。
最優先に置かれるのは、電源が切れると生命に関わる機器です。人工呼吸器、吸引器、酸素濃縮器がこれにあたります。前の節で作成した利用者名簿がここで役に立ちます。誰がどの機器を使い、その機器が何ワットを消費するのかを書き添えておけば、優先給電の第一階層が決まります。機器の消費電力は本体の銘板か取扱説明書に記載されているので、平時のうちに控えておく作業になります。
次に来るのが照明です。全館を明るくする必要はなく、夜間に人が動く経路に絞れば足ります。居室からトイレまでの動線、階段、避難経路。ここが暗いままだと、転倒が起きるだけでなく、職員が利用者の様子を確認するときに支障があります。消費電力の小さいLEDであれば、限られた容量でも確保しやすい部類に入ります。
通信も同じ階層に置いてよい項目です。安否確認、家族への連絡、行政や医療機関とのやりとりは、いずれも電源がなければ動きません。ただし通信機器の消費電力は小さいため、発電機や蓄電池の容量を割く必要は必ずしもありません。モバイルバッテリーやポータブル電源を通信専用に確保しておけば、大きな電源は医療機器と照明に回せます。ひな形が通信手段の項目で、通信機器のバッテリーとして携帯電話充電器や乾電池を挙げているのも同じ考え方です。フロアごとに満充電のものを配置し、担当者を決めておくところまでを平時に済ませておきます。
判断が分かれるのが空調です。真夏と真冬であれば、体温調節機能の落ちた高齢者にとって生命に関わる設備になりますが、春秋であれば後回しにできます。季節によって優先順位が入れ替わる項目だと理解して、夏場の運用と冬場の運用を分けて書いておくのが実務的です。また、エアコンは消費電力が大きく、小型の発電機やポータブル電源では起動すらできない場合があります。空調を電源で維持することが難しいと分かったなら、そのときは別の手段を用意することになります。夏であれば涼しい階への一時的な移動、冬であればカセットガスストーブや灯油ストーブと毛布の備蓄。ひな形がガスの項目で、暖房としてストーブと灯油の備蓄を挙げているのはこのためです。
こうして必要な機器を並べたら、消費電力を合計します。このとき注意が要るのは、モーターやコンプレッサーを持つ機器の起動時です。冷蔵庫や電動ベッド、エアコンは、動き出す瞬間に定格の数倍の電力を必要とします。定格値だけで合計すると、複数の機器が同時に立ち上がった瞬間に容量を超えます。余裕を見て容量を決めるのはこのためで、合計値の1.3倍から1.5倍程度を見込んでおけば、想定外の負荷にも対応できます。
決めた優先順位は、頭の中ではなく紙で共有してください。停電は夜間や休日にも起こり、そのとき事業所にいるのが管理者とは限りません。どのコンセントが非常用電源につながっているのか、どの機器を先に差すのか、誰が判断するのか。これらが書かれた一枚が電源設備の近くに貼ってあれば、その場にいる職員が確認できます。
決めたことをBCPのどこに書き戻すか
ここまでの検討をBCPに反映しておかなければ、調べた内容は担当者の記憶の中だけに残ることになります。ひな形には書き込む場所があらかじめ用意されているので、対応する欄を順に埋めていきます。
書き込む先の中心は、補足10の「電気、ガス、生活用水が止まった場合の対策」です。ひな形の記入例には、自家発電機の出力と使用可能時間、燃料の種類、ガソリンスタンドとの優先供給協定を締結するという記述が並んでいます。自事業所の設備に置き換えて、機器の種類と容量、何時間もつのか、燃料は何か、どこから調達するのかを書きます。あわせて、電気がなくても使える代替品として乾電池式や手動式のものを準備する旨も、この欄に記入する項目に含まれています。導入しないという結論を出した事業所であれば、要否を検討したうえで代替手段で対応する方針をここに書けば、検討の形跡が残ります。
備蓄品については、様式6-災害に記入します。ここで見落とされやすいのが、発電機本体だけを書いて終わってしまうことです。ひな形の様式には、発電機、発電機燃料、発電機オイル、電源リールが別々の品目として並んでいます。本体があっても燃料が切れれば止まり、オイルがなければ回せず、電源リールがなければ屋外から屋内へ電気を引けません。一組で機能する備品なので、リストにも一組で載せておく必要があります。ポータブル電源やモバイルバッテリーを通信用に確保したのであれば、それも台数とともにここへ書き足します。
そして、点検と訓練です。ひな形は自家発電機について、設置場所と稼働方法をあらかじめ確認しておくこと、定期的な検査とともに、緊急時に問題なく使用できるよう性能の把握および訓練をしているかを問うています。機器を持っているかどうかではなく、それを動かせるかどうかを問う書き方になっている点が重要です。
実際、停電時に発電機が動かなかったという話は珍しくありません。長く動かしていなければエンジンはかかりにくくなりますし、保管している燃料も劣化します。蓄電池やポータブル電源は、放電したまま置いておくと容量が落ちます。ですから点検は、存在の確認ではなく起動の確認でなければ意味がありません。実際に始動させ、必要な機器を接続して動くところまで確かめる。その日付と実施者を書く欄を、様式のどこかに設けておいてください。年に何回点検すると計画に書いておきながら、実施を記録する場所がないという状態は、備蓄品の管理でもよく見かけます。
訓練についても同じです。ブレーカーを落として実際に電源を切り替えてみると、計画を書いているときには見えなかったことが分かります。発電機の保管場所から設置場所まで運ぶ経路に物が置かれていた、延長コードが数メートル足りなかった、非常用のコンセントがどれか職員が知らなかった。こうした発見は現場で動かなければ出てきません。訓練で分かったことを計画に書き戻せば、その訓練はBCPの改訂記録にもなります。
停電対策は、機器を買うかどうかの話に見えて、実際には自事業所の利用者と業務を電源の観点で見直す作業です。誰の生命が電気に依存しているのか、何時間の停電までなら通常どおり動けるのか、何日目に別の判断へ切り替えるのか。そこが決まっていれば、必要な機器の条件はおのずと絞られます。逆に、そこを決めないまま製品を比較しても、選ぶ基準がないまま情報が増えていくだけになります。
非常用電源の稼働時間と、必要な機器の消費電力が計算されていますか
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