BCP の定期見直しポイント―形骸化させない運用のコツ
「令和6年3月 作成」。更新履歴の欄に、その1行だけが残っている。BCPを開くたびに目に入るけれど、では何を書き足せばいいのかが分からない。見直しが要ることは知っていますし、やる気がないわけでもありません。ただ、百ページ近い文書を前にすると、どこから手をつければ見直したことになるのかが見えてきません。
見直しが終わらないのは、全部を読み返そうとするからです。頭から通して読み、気になったところを直していく。この進め方では半日かけても3分の1で力尽きますし、翌週には最初のほうを忘れています。そして来年また、同じところから読み始めることになります。
見る場所は4か所しかありません。順番も決まっています。以下、その4つと、それぞれ何がどう書かれていたら直すべきなのかを示します。
制度は「定期的に」としか言っていない
私は看護師として現場に入り、主任介護支援専門員として居宅介護支援事業所を運営しながら、防災士と事業継続管理者の立場でBCPの書面診断を行っています。介護の実務は25年になります。2018年の大阪北部地震では、管理者として初動にあたりました。診断で計画を読んできた実感として、更新履歴が「作成」の1行で止まっている事業所は半分を超えます。
条文には頻度が書かれていない
条文を確認しておきます。指定訪問介護の場合、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第30条の2第3項が、「指定訪問介護事業者は、定期的に業務継続計画の見直しを行い、必要に応じて業務継続計画の変更を行うものとする」と定めています。ほかのサービスにも、それぞれの基準に同じ趣旨の規定が置かれています。
読んで分かるとおり、頻度が書かれていません。年1回とも、半年に1回とも書かれていない。だから事業所が自分で決めることになります。ここで多くの計画が「必要に応じて見直す」とだけ書いて済ませていますが、この書き方では、いつ誰が見直すのかが特定できません。見直したかどうかを自分でも判定できませんし、運営指導で示すこともできません。時期と担当を決めて書く。これが最初の修正点になります。
見直しは、訓練の結果を戻す作業でもある
見直しは新しく作業を増やすことではありません。訓練をやれば「決まっていなかったこと」が必ず出てきますから、それを計画に戻せば、そのまま見直しの中身になります。年に1回の訓練が、年に1回の見直しの記録を生む。この構造にしておけば、見直しのためだけに時間を取る必要がなくなります。
記録、突合、痕跡の順に見る
4か所のうち、はじめの3つはその日のうちに終わります。文書を開いて確かめるだけの作業だからです。
実施記録があるか
最初に見るのは計画本文ではなく、記録のほうです。研修と訓練の実施記録が残っているか。そして、その記録から感染症と自然災害のどちらを実施したのかが読み取れるか。
この状態ならNG 記録を残す様式が文書のどこにもない。あるいは記録は1枚あるが、想定した事象の欄が「災害対応訓練」とだけ書かれていて、感染症と自然災害のどちらを行ったのか判別できない。
ここを最初に見るのは、計画の文章をどれだけ整えても、記録がなければ実施していないのと同じ扱いになるからです。基準が求めているのは、計画を策定し、それに従って必要な措置を講じることです。措置を講じた事実は、記録にしか残りません。
文書のなかで食い違っていないか
記録を確かめたら、本文と様式を突き合わせます。本文が「◯◯リストを用いて確認する」と書いているのに、様式集にその様式が存在しない。様式番号が、本文の参照とシート名と様式内の見出しで揃っていない。表紙の版数と改定履歴の日付が合っていない。
この状態ならNG 本文が参照している様式のうち、1つでも実物がない。あるいは同じ様式が3か所で別の番号で呼ばれている。
厄介なのは、自分で書いた文書ほど食い違いが見えないことです。書いたときの記憶が補ってしまうので、「◯◯リスト」と読んだ瞬間に頭のなかで様式が浮かび、実在するかを確かめないまま通り過ぎます。本文を読む担当と様式集を開く担当を分けるか、様式の一覧を先に紙へ書き出してから本文を読むと、見つかるようになります。
ひな形の痕跡が残っていないか
残るひとつは、他所のものが混ざっていないかどうかです。ひな形をもとに作っている以上、これは怠慢ではなく普通に起きます。
この状態ならNG 他の自治体名や他の事業所名が残っている。職員数や利用者数が例示のままで実数と合っていない。地震編の安全対策が水害の記述から始まっている。所在地の浸水想定や土砂災害警戒区域、建物の構造と階数といった、その事業所にしかない条件がどこにも書かれていない。
最後の1点が一番多く見つかります。リスクの把握の章に一般的な地震の説明だけが並んでいて、自分の建物の話がどこにも出てきません。ハザードマップを開き、浸水想定の深さと、事業所が何階にあるかを1段落書き足す。それだけで章の性格が変わります。
制度の前提は、いま3か所ずれている
4つ目は制度の前提です。自分の計画が古くなっているかどうかは、次の3点で判定できます。いずれも直近数年の変更で、ひな形の配布時期によっては、最初から古いまま作っている場合があります。

感染症編が5類移行前のままになっていないか
新型コロナウイルス感染症が令和5年5月8日に5類感染症へ移行して以降、保健所が濃厚接触者を特定して行動制限を求めることはなくなりました。
この状態ならNG 保健所が濃厚接触者を特定する前提で対応手順が組まれている。「1メートル・15分以上」といった旧基準が様式の注記に残っている。
誰が接触者にあたるのかを事業所自身が判断する建付けに、書き換える必要があります。
避難勧告という語が残っていないか
令和3年5月の災害対策基本法の改正で「避難勧告」は廃止され、「避難指示」に一本化されました。
この状態ならNG 「避難勧告」「避難警報」といった、いま制度上存在しない語が行動基準に残っている。
防災気象情報の名称が令和8年5月29日以降のものか
ここが今年の変更で、まだ手をつけていない事業所がほとんどのはずです。令和6年6月に取りまとめられた「防災気象情報に関する検討会」の提言を踏まえ、令和8年5月29日から新たな防災気象情報の運用が始まりました。
河川氾濫、大雨、土砂災害、高潮に関する情報が、避難情報の5段階の警戒レベルに対応する形に整理されています。情報の名称そのものにレベルの数字が付き、大雨警報は「レベル3大雨警報」、高潮注意報は「レベル2高潮注意報」となりました。従来の洪水警報と洪水注意報は廃止され、洪水予報河川は「河川氾濫」、それ以外の中小河川は「大雨」として伝えられます。全員避難の目安となるレベル4相当の情報は「危険警報」として運用され、土砂災害警戒情報は「レベル4土砂災害危険警報」に変わりました。河川氾濫については「レベル5氾濫特別警報」の運用も始まっています。
なお、暴風や暴風雪などの警報、雷や強風、乾燥などの注意報については、名称が変わっていません。見直しの対象は、河川氾濫・大雨・土砂災害・高潮の4区分に絞られます。
この状態ならNG 風水害編の発動基準に旧名称が並んでいる。あるいは「警報や注意報をこまめに確認する」という一般的な書き方で止まっていて、どの情報が出たら何をするのかが対応していない。
令和6年や令和7年に作った計画は、この点では例外なく旧名称のままです。逆に言えば、ここを直せば直近の改正に追随している計画になります。警戒レベルと自事業所の行動を紐づける表を1つ作り、レベルいくつでサービスを縮小し、いくつで中止するかを書いてください。訪問系なら訪問の可否、通所系なら送迎の可否が、そのまま判断の対象になります。

「見直した」と言えるのは、履歴に何が書いてあるとき
4か所を見終わったら、更新履歴に戻ります。ここに何を書けば、見直したことになるのか。
更新履歴に書く3項目
必要なのは、日付と、改訂した箇所と、改訂の理由の3つです。効くのは理由の欄で、「◯年◯月◯日実施の訓練による」「防災気象情報の名称改定による」と書いてあれば、その改訂が思いつきではなく、何かを受けて行われたことが読み取れます。運営指導で見直しの実施を問われたとき、これがそのまま答えになります。
直すところがなかった場合も、1行残してください。「◯年◯月◯日 全項目を確認、改訂なし。確認者 ◯◯」。改訂がないことと、確認していないことは別です。この1行があるかないかで、その年に見直しを行った事実が残るかどうかが決まります。
時期と担当を計画本文に書き込む
見直しの時期と担当を、計画本文に書き込んでください。「毎年◯月に、管理者が全項目を確認する」と書いてしまえば、翌年の自分に予定が引き継がれます。「必要に応じて」のままでは、必要かどうかを判断する機会そのものが訪れません。
担当は1名にしないでください。正担当と副担当を置く。1名だけに任せていると、異動や退職の時点で見直しの運用が途切れます。BCPは数年単位で回していく文書なので、担当者が代わることを前提に組むほうが続きます。
ここまでの4か所は、順に見ていけば2時間ほどで一巡します。全部を読み返そうとするから終わらないのであって、見る場所を決めてしまえば、見直しは年に一度の半日仕事に収まります。

更新履歴が「作成」の1行で止まっていませんか
介護BCP教育研究所では、BCP本体と様式・関連文書を突き合わせ、制度の陳腐化・文書間の不整合・記録様式の抜け漏れを洗い出すBCP診断を行っています。
指摘のそれぞれに、研修と訓練の題材を付けてお返しします。詳しくは診断サービス(https://kaigo-bcp.jp/shindan/)のページをご覧ください。


