介護事業所の備蓄は3日分か7日分か

介護BCPの備蓄における3日と7日の違いを示す図。3日は行政支援が届くまで、7日はライフライン復旧までの日数

皆さんの事業所のBCPの備蓄品リストの日数の欄に「3日分」と記入したのは、厚生労働省のひな形にそう読める記載があったからで、作成した時点では特に疑問を持たなかったという方が多いのではないでしょうか。ところが、その後に研修などで「1週間分が望ましい」という話を耳にしたり、他の事業所の計画を見せてもらうと7日分と書かれていたりした経験はありませんか。どちらが正しいのかを調べようとしても、検索で出てくる記事の多くは「3日分、できれば7日分」と両論を並べるにとどまり、それぞれの数字がどこから来たのかまでは教えてくれないものがほとんどです。

実は、3日と7日は対立する二つの説ではなく、どちらも厚生労働省が公開している同じ資料一式、すなわち業務継続ガイドラインとその記入用ひな形の中に、根拠とともに書かれている数字です。そのため、両方の数字の出どころを原文で確かめれば、自分の事業所が何日分と書くべきかも、その根拠をどこに書き戻すかも見えてきます

この記事では、まず両方の数字がどこに書かれているのかを原文で確かめたうえで、日数の決め方と、決めた日数を計画のどこに反映させるかまで解説していきます。

備蓄「3日分」の根拠

3日という数字は、厚生労働省の「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」に由来します。ガイドラインの備蓄の項に「行政支援開始の目安である被災後3日目まで、自力で業務継続するため備蓄を行う」と明記されており、総論の基本方針にも、一般的には3日間を乗り切れば外部からの何らかの支援を受けられると想定されるため「3日間の初動対応が重要」になる、という説明があります。

つまり3日というのは、行政の支援が届き始めるまでの目安であって、建物が直る日数でも水道が戻る日数でもありません。大地震などの自然災害の発災直後には、公的な物資も応援もまだ届かない空白の時間が生じます。その期間を自力でしのぐための最低ラインとして、ガイドラインは3日という日数を掲げているのです。

また、数量の考え方も同じガイドラインに示されていて、水は1人1日3リットルで3日なら9リットル、食料は1人1日3食で3日なら9食、毛布は1人1枚とされています。1人当たりの数量に人数と日数を掛け合わせれば備蓄量の目安が出るという、単純な計算の枠組みです。

したがって、運営指導や法人内で「なぜ3日分なのか」と問われた場合には、厚労省のガイドラインが行政支援開始の目安である被災後3日目までを自力でしのぐ前提を置いているから、と答えれば根拠の説明として成立します。

ただし、同じ厚労省の資料一式をもう少し読み進めると、今度は7日という数字が繰り返し現れます。3日で足りると言い切れない事情が、実は資料そのものの中に書かれているのです。

同じ資料の中の「7日」とは

ガイドラインに対応する記入用のひな形、すなわち令和5年度版の「自然災害ひな形(共通)」を開くと、水道が止まった場合の対策の項に飲料水の計算式が載っています。そこには「3リットル/人/日 × ●人分(職員を含める) × 7日(最低3日)=●リットル」と書かれており、備蓄の方針として示された3日ではなく、7日を基本に置いたうえで最低ラインとして3日を括弧で添える形になっています。

7日はこの計算式だけにとどまりません。備蓄品リストの様式である「様式6-災害」の飲料・食品の欄には、7日分の献立表を作成したうえで必要な食品を考えるように、という指示があり、しかも常食、軟菜食、ソフト食やペースト食といった形態別に検討するよう促しています。BCPの策定の際に、厚労省のひな型を使って備蓄品リストを埋めた事業所であれば、この一文を目にしているのではないでしょうか。

なぜ7日が出てくるのかという理由も、同じひな形の中に説明があります。補足7には東日本大震災の経験値として、震度7の地域では電力が1週間、水道が3週間、都市ガスが5週間でほぼ復旧したという数字が示されており、50パーセントの復旧時点でも電力3日、水道1週間、ガス3週間とされています。また、震度6程度であれば、上水と下水が7日、電気が3日、都市ガスが3週間という想定が本文の被害想定の欄に例示されています。そして、ガイドライン本体にも、都市ガスが停止した場合は復旧まで1か月以上を要する可能性があるという記述があります。

ここまで並べると、3日と7日が測っているものの違いがはっきりしてきます。3日は外部からの支援が届き始めるまでの日数であり、7日はライフラインが自事業所に戻ってくるまでの日数です。支援が届くことと、水道が復旧することは別の出来事ですから、両者の日数が一致しないのはむしろ当然といえます。

問題は、この違いを意識しないままひな形を埋めた場合に何が起きるかです。基本方針の欄には3日間の初動対応が重要だという文章がそのまま残り、飲料水の計算式は7日で計算され、備蓄品リストの様式には7日分の献立表を作るよう書かれている。ところが実際に発注した備蓄は3日分、という状態の計画を、私は介護BCP教育研究所が行っている、介護事業所のBCPの書面診断のなかで繰り返し目にしています。書いた本人にとっては、どれも厚労省のひな形どおりに埋めた結果ですから、食い違っているという自覚が生まれにくいので、その矛盾に気づいていないのです。

「3日で支援が届く」は目安で保証ではない

ガイドラインが3日とした根拠は、行政支援の開始がおおむねその頃になるという想定にあります。ただしこれは全国どこでも成り立つ約束ではなく、被災地の地形と道路の状況によって大きく変わります。

令和6年能登半島地震では、その前提が崩れました。中央防災会議の報告書によれば、道路の通行止めにより33地区・最大3,345人が支援を受けられない孤立状態に陥り、孤立集落の解消が喫緊の課題となりました。緊急復旧が進んで孤立集落が実質的に解消したのは1月19日で、元日の発災から3週間近くが経ってからです。断水も長期に及びました。最大約136,440戸で断水が生じ、水道本管が建物倒壊地域等を除いて復旧したのは5月31日でした。また、同じ報告書で災害時のトイレ確保について、プッシュ型支援で携帯トイレが支援されるとしても最低3日は要すると明記しています。支援は届くとしても、それは早くて3日目からという意味であって、3日で状況が解決するという意味ではありません

令和8年7月に発生した熊本地震でも、同じことが起こりました。地域によっては避難所まで十分な物資が行き届かず、内閣府が各地の避難所へ職員を派遣するなどして、物資の目詰まりの解消を図っています。備蓄を3日分で足りると計算した事業所が、4日目の朝に何を配ればよいのかという問題は、過去の話ではありません。

私自身も2018年の大阪北部地震では、管理者として初動にあたりました。都市部で交通網も比較的早く回復した地域でしたが、それでも少し場所が離れれば、断水している、水は出るがガスが止まっているので調理ができないなどの状態がしばらく続きました。半島や山間部と比べれば恵まれた条件でも、必要なものが必要なときに手に入らない状況は起こります。

こうした事実を踏まえると、日数の決め方は次のように整理できます。3日は、どの事業所も下回ってはいけない最低ラインです。そのうえで、自事業所の条件によって上乗せを検討することになります。判断の材料になるのは、まず立地です。事業所に至る道路が限られていて、迂回路が乏しい場所であれば、支援の到達が遅れるリスクが高くなります。ハザードマップで土砂災害警戒区域や浸水想定区域を確認し、そこに搬入経路が重なるようであれば、7日を基本に置くほうがリスクを抑えられます。

次に、ライフラインの種類です。ガイドラインの復旧想定では、電気は比較的早く戻る一方、水道と都市ガスは長引きます。プロパンガスを使っている事業所と都市ガスの事業所とでは、調理と給湯が止まる期間が変わってきます。そのため、品目ごとに日数を分けて考え、この違いを備蓄量に反映します。たとえば、飲料水と、加熱を必要としない食料は、復旧の遅い水道とガスに合わせて長めにし、乾電池や簡易照明は電気の復旧想定に合わせて短めにする、といった具合です。

また、サービス種別による違いも押さえておく必要があります。通所介護であれば、自宅に送迎できない状況となり利用者が事業所に留まることも想定されるため、職員分に加えて利用者分の備蓄が必要になります。訪問介護や居宅介護支援では、事業所に大量の物資を置くのではなく、勤務する職員が携行できる形にする、利用者宅の備蓄状況を把握しておくことのほうが実効性を持ちます。福祉用具貸与では、電源を必要とする用具の利用者にポータブル電源が必要かを検討し、それをどう確保するかという視点が加わります。

決めた日数をBCPのどこと整合させるか

備蓄の必要日数を決めたら、それがBCPの中で一貫しているかを確かめる作業が必要になります。よくある問題が、日数そのものが間違っているのではなく、日数が文書のあちこちで食い違っているBCPです。

ここで確認すべき箇所は4つです。

備蓄日数とBCPの整合を確認する4か所。基本方針、被害想定の時系列表、備蓄品リスト、点検記録

最初に、基本方針です。ひな形の例示文をそのまま残していると、3日間の初動対応が重要だという文章が冒頭に置かれたままになってしまいます。7日分を備蓄すると決めたのであれば、なぜ3日ではなく7日なのかを、自事業所の立地や復旧想定に触れながら書き換えておく必要があります。ここを直さずに備蓄量だけ増やしても、計画を読んだ人には根拠が伝わらず、担当者が変われば3日になってしまうことも考えられます。

続いて、被害想定の時系列表です。厚労省のひな形の補足7には、震度に応じた復旧日数を記入する欄があります。ここに震度6の想定として電気3日・水道7日と書きながら、備蓄は3日分という計画では、自分で書いた想定と矛盾しています。水道が7日目まで戻らないと想定した以上、飲料水は7日分なければ計算が合いません。備蓄日数の根拠は、この表の中にあるので、矛盾がないか確認しておかなければなりません。

3つ目が、備蓄品リストを作成する際の前提がどうなっているかです。様式6-災害には備蓄量を記入しますが、その数量が「何人分の何日分か」を示す欄が空欄のままになっている計画をよく見かけます。飲料水300本という数字だけの記載では、職員が含まれているのか、利用者だけなのか、何日分なのかが伝わりません。人数と日数の計算の前提を明記しておけば、利用者や職員が増えたときに買い足すべき量がすぐに分かります。

最後が、点検の記録がどうなっているかです。厚労省のひな形には備蓄品の担当者を決めて定期的にメンテナンスを行うようにと書かれていますが、実施した日と点検者を書く欄が様式に定められていない計画が少なくありません。つまり、年2回確認すると自ら定めておきながら、確認した証拠を残す場所がないという状態です。もし、運営指導で備蓄の管理状況を問われたときに、備蓄リストの存在だけでは点検を実施したということの裏づけになりません。

備蓄は、BCPの中でも手をつけやすい項目です。だからこそ最初に着手して、そのまま作りっぱなしになりやすいのではないでしょうか。3日か7日かという問いに自分の言葉で答えられる状態になっていれば、そのBCPは数字を写しただけの文書から、事業所の判断が書かれた文書へと変わります。

自事業所のBCPを、第三者の目で確認しませんか

介護BCP教育研究所では、BCP文書のなかにある矛盾と抜け漏れを洗い出す書面診断を行っています。備蓄量の前提と被害想定の整合、点検記録の有無といった観点で確認し、より実効性の高いBCPに近づくお手伝いをします。詳しくはBCP診断・サポートのページをご覧ください。