訪問中・移動中に被災したら──ヘルパーの安全と、対応中の利用者をどう守るか【訪問介護】
入所施設のBCP(業務継続計画)は、「発災の瞬間、職員は施設内にいる」ことをほぼ前提に組み立てられています。だからこそ、そのひな形をそのまま訪問介護に持ち込むと、いちばん大事な想定が抜け落ちます。厚生労働省のひな型もベースは入所施設になっているので、訪問介護で使えるようにするには検討しなけれなならないことが抜けているのです。
訪問介護のヘルパーは、地震が起きたその瞬間、利用者宅でサービス提供の真っ最中かもしれません。あるいは、次の訪問先へ向かう移動の途中かもしれない。事業所の中にいる可能性のほうが、むしろ低いです。
では、訪問中・移動中に被災したら、ヘルパーは何をどの順で動けばいいのか。そして、その動きを事業所はどう支えるのか。訪問系ならではのこの論点を整理します。
なぜ「訪問中の被災」を別立てで考える必要があるのか
施設であれば、発災時に職員同士が声をかけ合い、利用者をまとめて避難誘導できます。目の前に建物があり、被害の程度も見て取れます。
訪問介護はそうはいきません。ヘルパーは一人で利用者宅にいることが多く、その場の判断を一人で担うことになります。しかも周囲に同僚や指示してくれるひとはいない。通信状況の断裂により事業所と連絡が取れるとも限らない。
この「一人で、その場で、判断する」状況をあらかじめ想定しておかないと、現場のヘルパーは何をしてよいか分からず立ち尽くしてしまうことは想像できるでしょう。
だからこそ、訪問中・移動中の対応方法は、事業所としてあらかじめ手順を検討し、全ての職員と共有しておく必要があります。
訪問中に被災したときの行動の順番
まず大前提として、優先順位の一番目はヘルパー自身の安全確保です。支援者が負傷してしまえば、その先の利用者対応もできなくなります。「利用者を守らねば」という責任感から自分の身を後回しにしがちですが、まず自分の身の安全を確保する、という順番を平時から共有しておくことが大切です。
そのうえで、対応中の利用者への支援に移ります。おおまかな流れは次のようになります。
① ヘルパー自身が身の安全を確保する(頭部保護など)
② 対応中の利用者の安否・容態を確認し、必要な安全確保を行う
③ 危険が迫る場合は、あらかじめ確認しておいた避難先・避難方法に沿って避難する
④ 利用者の状況を、決められた報告経路で事業所(対策本部)へ報告する
ここで訪問系ならではの注意点があります。利用者宅の火の元やガス、家具の転倒といった危険は、その家ごとに事情が違います。「対応中の利用者への支援手順」を、利用者の状態像に応じてあらかじめ想定しておくと、現場の判断がぐっと楽になります。研修や訓練で繰り返し周知することも大切です。

移動中に被災したときの想定
移動中の被災は、見落とされやすいところです。ヘルパーが自転車や車、徒歩で移動している最中に地震が起きたら、どうするのか。
この場合、まず自身の安全を確保したうえで、これから向かう利用者宅へ無理に到達しようとしないことも選択肢に入ります。災害時の移動は原則として徒歩となり、道路の陥没や建物の倒壊で通れる道が限られます。徒歩での移動速度は平常時の半分程度まで落ちるとされ、思うように動けないおそれがあります。余震のリスクもあります。
大切なのは、「無理に訪問を続ける」のか「いったん引き返して安全を確保し、事業所の指示を仰ぐ」のかを、ヘルパー個人の判断だけに委ねないことです。移動中に被災した場合の対応方法をあらかじめ検討し、判断の目安を共有しておく。それが現場のヘルパーを守ることにつながります。

報告経路は「一本化」しておく
訪問中・移動中の対応でもう一つ欠かせないのが、被災状況の報告経路です。
発災直後は、複数のヘルパーが同時に被災し、それぞれが利用者の状況を抱えます。ここで報告のルートが定まっていないと、事業所には四方八方から連絡が飛び込み、逆に全体像がつかめなくなります。私自身、2018年の大阪北部地震で複数の事業所の対応にあたったとき、この「連絡が殺到して初動が見えなくなる」状態を経験しました。
対策は、報告経路を一本化することです。誰から誰へ、どの手段で報告するのかを事前に決め、情報を対策本部に集約する。ヘルパーは「自分の安全 → 対応中の利用者 → 決められた一本の経路で報告」という流れを覚えておけばよい状態にしておく。これだけで、現場の負担も、事業所の混乱も大きく減らせます。

自事業所のBCPを見直したい方へ
介護BCP教育研究所では、BCP文書のなかにある矛盾と空白を洗い出すBCP診断を行っています。「訪問中・移動中の被災」という訪問系ならではの想定が計画に組み込まれているか、報告経路が一本化されているか、といった在宅系ならではの視点でチェックします。詳しくは診断サービスのページをご覧ください。


