一人ケアマネこそ考えたい、被災時の応援体制のつくり方【居宅介護支援】

これまでの記事では、災害時にケアマネジャーが担当利用者の安否確認をどう優先づけるか、各事業所の休止基準をどう把握しておくかを見てきました。どちらも大切な備えですが、実は一つの前提の上に成り立っています。それは、「ケアマネ自身が動ける」という前提です。

では、もしケアマネ自身が被災したら。事業所そのものが機能を止めてしまったら。担当している利用者のケアマネジメントは、いったい誰が回すのでしょうか。とくに一人ケアマネや小規模の事業所では、本人が動けなくなった瞬間に、担当利用者への支援が丸ごと止まりかねません。今回は、「自分が動けない」ことを前提にした備えを考えます。

これまでの備えは「ケアマネが動ける」前提

安否確認の優先順位づけも、各事業所の休止基準の把握も、ケアマネが電話をかけられ、調整に動ける状態であってはじめて機能します。裏を返せば、その前提が崩れたときのことは、案外見落とされがちです。

災害は、利用者だけを選んで襲うわけではありません。ケアマネ自身も被災します。自宅が損壊するかもしれないし、家族の対応に追われるかもしれない。出勤しようにも交通手段が絶たれているかもしれない。「利用者を支える側」もまた、被災者の一人なのです。この当たり前の事実を、計画に織り込んでおく必要があります。

事業所の機能が止まるとは

「事業が継続できない」状況を、具体的に想像してみましょう。いくつかのパターンがあります。

一つは、職員が参集できないケースです。
一人ケアマネであれば、その一人が動けなければ事業は止まってしまいます。複数名いても、全員が被災すれば同じことです。

二つ目は、事務所そのものが被災するケースです。
建物が損壊したり、浸水したりして、事務所に入れない。電気や通信が止まる。日常の拠点が使えなくなります。

三つ目は、利用者情報や記録にアクセスできなくなるケースです。
パソコンが水没した、サーバーが停止した、紙の記録が持ち出せない。ケアマネジメントの土台となる情報が失われれば、たとえ人が動けても支援は進みません。

国のガイドラインも、災害発生時に「事業が継続できない場合」があることを正面から想定し、その場合の対応をあらかじめ用意しておくことを求めています。事業所の機能停止は、けっして極端な想定ではないのです。

「事業所を越えた事前の調整」が必要

自分の事業所が止まったとき、担当利用者を放っておくわけにはいきません。ここで鍵になるのが、事業所の枠を越えた連携です。

ガイドラインは、災害時に事業が継続できない場合には、他の居宅介護支援事業所、居宅サービス事業所、地域の関係機関と事前に検討・調整した対応を行う、としています。ポイントは「事前に」検討・調整しておくことです。被災してから連携先を探すのでは間に合いません。平時のうちに、「もし自分たちが動けなくなったら、どの事業所に、どの利用者の対応を引き継いでもらうか」を話し合っておく。この段取りが、いざというときの命綱になります。

ここで大切な視点があります。連携は、相手を助ける側の話だけではありません。ガイドラインも、支援を受ける立場になったときに、どうすれば円滑に相手から支援を受けられるかを検討・準備しておくことの重要性に触れています。「うちが倒れたときに助けてもらう」準備は、決して後ろ向きなことではなく、利用者を守るための前向きな備えです。日ごろから地域の関係機関や他事業所と良好な関係を築いておくことが、その土台になります。

応援を受けても動けるよう、情報を引き継げる状態に

連携先を決めておいても、それだけでは足りません。応援に入ってくれた事業所が、実際に利用者を支援できるかどうかは、情報が引き継げるかにかかっています。

担当ケアマネしか知らない情報が、その人の頭の中だけにある状態では、本人が動けなくなった瞬間にすべてが止まります。だからこそ、最低限必要な利用者情報を、あらかじめ引き継げる形にまとめておくことが欠かせません。誰が、どんな状態で、どんな支援を受けていて、緊急時に誰へ連絡すればよいのか。避難先でも、応援の事業所でも参照できるように整理しておくのです。

この備えは、1本目でお伝えした「利用者台帳に災害時の優先度が分かるようにしておく」話と地続きです。優先度が整理され、必要な情報がまとまっていれば、応援に入った事業所も「まずこの利用者から」と動けます。自分の頭の中にある情報を、他者が引き継げる形にしておく。これが、ケアマネ不在時にも支援をつなぐための、地味だけれど決定的な準備です。

一人で、自事業所だけで抱えない

最後に、この記事でいちばんお伝えしたいことを。それは、災害時のケアマネジメントを「一人で、自事業所だけで抱えない」ということです。

ふだんのケアマネジメントは、担当者が責任を持って一人ひとりの利用者と向き合います。その姿勢は尊いものですが、災害という局面では、その「一人で抱える」構えが弱点にもなり得ます。自分が動けなくなったとき、代わりがいなければ、利用者が取り残されてしまうからです。

事業所の枠を越えて連携先を決めておくこと。支援を受ける側の準備をしておくこと。そして、自分の頭の中の情報を、他者が引き継げる形にしておくこと。この三つがそろってはじめて、ケアマネが不在になっても利用者のケアはつながります。自事業所だけで完結させようとする発想から一歩踏み出すこと。それが、担当利用者を災害から守る、居宅介護支援ならではの備えです。

「自分が動けないとき」の備えが、計画にありますか

介護BCP教育研究所では、BCP文書のなかにある矛盾と空白を洗い出すBCP診断を行っています。事業が継続できない場合の他事業所・地域との連携が具体的に定められているか、利用者情報を引き継げる備えが組み込まれているか、といった居宅介護支援ならではの視点でチェックします。

詳しくは診断サービスのページをご覧ください。