介護事業所のBCP訓練義務化―あなたの事業所は該当する?サービス別に徹底解説

「うちの事業所はBCP訓練が必要なの?」「年に何回やればいいの?」――2024年度からBCP策定と訓練実施が義務化されたものの、自事業所が具体的にどう対応すべきか迷っている管理者や担当者の方は少なくありません。今回は、厚生労働省の基準省令に基づき、サービス種別ごとの訓練実施義務を具体的に解説します。

BCP訓練の義務化

介護事業所におけるBCP(業務継続計画)の策定と訓練実施は、令和3年度介護報酬改定により、各サービスの基準省令に位置づけられました。具体的には「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準」「指定居宅介護支援等の基準」「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」などにおいて、業務継続計画の策定、研修・訓練の実施、計画の定期的な見直しが義務付けられています。

当初は3年間の経過措置期間が設けられていましたが、2024年4月1日をもって完全義務化となりました。つまり、現在はすべての介護事業所において、BCP策定と訓練実施が法的義務となりました。

施設系サービス:年2回の訓練が必要な事業所

施設系サービスでは、年2回以上の訓練実施が義務付けられています。具体的には以下のサービスが該当します。

介護保険施設では、特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設)、介護老人保健施設、介護医療院の3つの施設種別すべてが対象です。これらの施設では、多くの利用者が24時間365日生活しており、災害時や感染症発生時にも継続的なケアの提供が求められます。そのため、より頻繁な訓練を通じて職員の対応力を高める必要があるのです。

地域密着型サービスのうち施設系のものも年2回の訓練対象です。具体的には、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)、地域密着型特定施設入居者生活介護、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護が該当します。グループホームは小規模とはいえ、認知症の方が共同生活を送る場であり、災害時の避難誘導などには特別な配慮が必要です。そのため施設系として年2回の訓練が求められています。

特定施設入居者生活介護を提供する有料老人ホームやケアハウスなども、施設系サービスとして年2回の訓練義務があります。外部サービス利用型特定施設を除く一般型の特定施設では、介護職員が24時間常駐して介護サービスを提供しているため、災害時の初動対応から継続的なケア提供まで、施設として一体的な対応が求められます。

短期入所系サービスである短期入所生活介護(ショートステイ)と短期入所療養介護も年2回の訓練対象です。短期利用とはいえ、滞在中に災害が発生すれば施設として利用者を守る責任があります。また、日常的に利用者が入れ替わるため、その時々の利用者構成に応じた柔軟な対応力が求められ、訓練の重要性が高いサービスといえます。

これらの施設系サービスでは、年2回の訓練を通じて、昼間帯と夜間帯での対応の違い、職員配置が手薄な時間帯の対応、利用者の身体状況に応じた避難誘導など、様々なシチュエーションを想定した実践的な訓練を積み重ねていくことが期待されています。

在宅系サービス:年1回の訓練が必要な事業所

在宅系サービスでは、年1回以上の訓練実施が義務付けられています。該当するサービスは多岐にわたります。

訪問系サービスでは、訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導が該当します。これらのサービスは、職員が利用者の自宅を訪問してサービスを提供する形態です。災害発生時には、訪問中の利用者の安全確保に加え、訪問予定だった他の利用者の安否確認、職員自身の安全確保と参集可否の判断など、施設系とは異なる対応が求められます。そのため、広範囲に分散する利用者への対応をどう優先順位付けするか、通信手段が途絶えた場合の連絡方法など、在宅系特有の課題に焦点を当てた訓練が重要です。

通所系サービスである通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション(デイケア)、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護も年1回の訓練対象です。これらのサービスでは、日中の一定時間、事業所内で複数の利用者にサービスを提供します。災害発生時には、事業所内での利用者の安全確保、家族への連絡と引き渡し、送迎中の対応など、時間帯によって異なる対応が必要になります。特に送迎車両が運行している時間帯に災害が発生した場合の対応は、訓練で確認しておくべき重要なポイントです。

多機能系サービスである小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス)も年1回の訓練が義務付けられています。これらのサービスは、訪問・通い・泊まりを組み合わせて提供する特性上、その時点でどこに何名の利用者がいるかが日々変動します。そのため、様々なパターンを想定した訓練が必要になります。

ケアマネジメントを提供する居宅介護支援事業所も年1回の訓練対象です。ケアマネジャーは直接的な介護サービスは提供しませんが、災害時には担当利用者の安否確認、サービス事業所との連絡調整、代替サービスの手配など、ケアマネジメントの継続において重要な役割を担います。

福祉用具関係の福祉用具貸与、特定福祉用具販売も訓練義務の対象です。災害時には、利用者が使用している福祉用具の状況確認や、停電時の電動ベッドや吸引器などへの対応支援も求められる場合があります。

これらの在宅系サービスでは、年1回の訓練を充実させるために、事前学習や図上訓練(シミュレーション)を組み合わせるなど、限られた機会を最大限活用する工夫が求められます。

定期巡回・随時対応型訪問介護看護の特殊性

定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、24時間365日の対応を行う在宅系サービスですが、訓練頻度については年1回の在宅系サービスとして扱われます。ただし、サービスの性質上、夜間・早朝の対応や随時の通報への対応など、より幅広いシチュエーションを想定した訓練内容が求められるでしょう。

訓練実施のタイミングと計画的な実施

訓練は年度内に規定回数を実施する必要があります。施設系サービスであれば年2回ですから、例えば6月と12月、あるいは5月と11月など、半年程度の間隔を空けて実施するのが一般的です。1回目の訓練で見つかった課題を改善し、2回目の訓練でその効果を検証するというPDCAサイクルを回すことができます。

在宅系サービスの年1回訓練は、できれば年度の前半に実施することをお勧めします。訓練で見つかった課題を年度内に改善し、次年度の事業計画やBCPの見直しに反映させることができるからです。ただし、新年度すぐの4月は職員の異動や新人受け入れなど多忙な時期ですので、6月から10月頃の実施が現実的でしょう。

訓練の実施時期は、地域の災害リスクも考慮して設定することが望ましいです。例えば、水害リスクが高い地域では梅雨や台風シーズン前に水害を想定した訓練を行う、積雪地域では冬季前に寒波や大雪を想定した訓練を行うなど、季節性を考慮することで、より実践的な訓練になります。

他の訓練との関係整理

介護事業所では、BCPとは別に消防法に基づく避難訓練も義務付けられています。特に入所系施設では年2回以上の避難訓練実施が消防法で定められています。これとBCP訓練を完全に別個に実施すると、職員の負担が大きくなります。

実務的には、避難訓練とBCP訓練を組み合わせて実施することが効率的です。例えば、火災を想定した避難訓練に、その後の業務継続対応(一時避難後の利用者ケアの継続、家族への連絡、代替施設の手配など)を加えることで、避難訓練とBCP訓練を兼ねることができます。ただし、その場合でも、それぞれの訓練として記録を残し、両方の要件を満たしていることを明確にしておく必要があります。

訓練実施の記録と保管

訓練を実施した際には、必ず記録を作成し保管することが重要です。運営指導の際には、BCP策定の有無だけでなく、訓練実施の記録も確認されます。記録には、実施日時、参加者、訓練内容(シナリオ)、実施結果、発見された課題、改善策などを記載します。

厚生労働省が提供しているBCPひな形には、訓練実施記録の様式例も含まれていますので、それを活用することができます。また、訓練の様子を写真や動画で記録しておくと、参加できなかった職員への共有や、次年度の訓練計画立案の際にも役立ちます。

集団指導や運営指導での確認事項

各自治体の集団指導や運営指導では、BCP関連で以下のような点が確認されています。BCP(自然災害編・感染症編)の策定状況、訓練の実施記録(実施日、参加者、内容、結果)、職員研修の実施記録、BCPの定期的な見直し(訓練結果の反映)などです。

特に訓練については、「形式的に実施しているだけではないか」という視点でも確認されます。つまり、同じ内容を毎年繰り返しているだけ、シナリオが抽象的で実効性に欠ける、訓練結果がBCPの改善につながっていない、といった形骸化した訓練では、実質的に基準を満たしていないと判断される可能性があります。

まとめ:自事業所の義務を正しく理解する

BCP訓練の義務は、サービス種別によって明確に定められています。あなたの事業所が施設系サービスであれば年2回、在宅系サービスであれば年1回の訓練実施が必要です。複数のサービスを運営している場合は、それぞれのサービスで基準を満たす必要があります。

訓練は義務だから仕方なくやるものではなく、利用者の命と尊厳を守り、職員自身の安全も確保するための重要な取り組みです。法令で定められた最低限の回数を実施することはもちろんですが、その訓練を形だけのものにせず、実効性のあるものにしていくことが、真の事業継続力につながります。

まだ訓練を実施していない事業所は、早急に計画を立てて実施してください。すでに実施している事業所も、今一度、自事業所のサービス種別に応じた訓練頻度が守られているか、訓練内容が形骸化していないか、確認してみることをお勧めします。

参考資料

  • 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」
  • 厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」
  • 各サービスの基準省令(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 等)