介護BCPの訓練は年に何回か──サービス種別ごとの実施回数と、研修との違い
BCPの訓練は年1回でよいと聞いていたのに、別の資料には年2回と書かれている。調べるほど、どちらが自分の事業所の話なのか分からなくなってきます。
この混乱には理由があります。回数はサービス種別ごとに定められていて、しかもその区分が「入所か在宅か」という直感と一致しない箇所があるためです。宿泊を伴うのに年1回、というサービスがあります。
年1回か年2回かは、サービス種別で決まっています
根拠は各サービスの解釈通知にあります。指定居宅サービス等の解釈通知(平成11年老企第25号)は、業務継続計画に係る研修について、職員教育を組織的に浸透させるため定期的(年1回以上)な教育を開催し、研修の実施内容を記録すること、訓練についても事業所内の役割分担の確認や発生時に実践するケアの演習等を定期的(年1回以上)に実施することを求めています。訪問介護も通所介護も、ここに入ります。
ところが同じ通知の中でも、特定施設入居者生活介護は数字が違います。研修も訓練も年2回以上。条文の構造は同じで、回数だけが書き分けられている形です。「老企第25号に年1回と書いてある」という調べ方をすると、自分のサービスの節を読まない限り答えを間違えます。
整理すると次のようになります。
| 実施回数 | 該当するサービス |
| 年2回以上 | (地域密着型)特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院 |
| 年1回以上 | 訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所介護、通所リハビリテーション、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護、短期入所生活介護、短期入所療養介護、(看護)小規模多機能型居宅介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、福祉用具貸与、特定福祉用具販売、居宅介護支援 |
間違えやすいのが短期入所です。宿泊があり、夜間の職員配置もあり、感覚としては施設に近い。それでも回数は年1回。名古屋市が公表している研修回数の一覧でも、介護保険施設の業務継続計画が研修・訓練とも年2回以上とされているのに対し、短期入所生活介護・短期入所療養介護は研修・訓練とも年1回以上で、新規採用時の研修は実施することが望ましい、という扱いになっています。この差は、次に扱う新規採用時の義務にもそのまま出てきます。
複数のサービスを運営している場合、回数は事業所単位ではなくサービス単位でかかります。同一法人で通所介護とグループホームを運営しているなら、通所介護で年1回、グループホームで年2回。合わせて年2回実施すれば足りる、という整理にはなりません。
研修と訓練は、記録の上で分かれていないと実施したことになりません
回数の話をするとき、訓練だけを数えている事業所が多いようです。研修にも同じ回数がかかります。年1回以上のサービスなら、研修を1回と訓練を1回、合わせて年2回の実施と記録が必要になります。年2回以上のサービスであれば、研修2回と訓練2回で年4回。
老企第25号は、この二つを別の項として書き分けています。研修は業務継続計画の具体的内容を職員間で共有し、平常時の対応の必要性と緊急時の対応への理解を促すもの。訓練(シミュレーション)は、発災時に迅速に行動できるよう、計画に基づいて事業所内の役割分担を確認し、実際に行うケアの演習などを実施するものです。知識を渡すのが研修、渡した知識で動けるかを確かめるのが訓練、と考えると区別しやすくなります。
訓練の手法は問われません。机上のシミュレーションで足ります。解釈通知には、机上及び実地で実施するものを適切に組み合わせながら実施することが適切である、と書かれています。避難訓練のような形が用意できないために訓練が止まっている事業所は少なくありませんが、会議室で1時間、想定を配って役割ごとに何をするか話し合えば、訓練として成立します。
書面診断でよく見つかるのが、この区別が記録に出ていない状態です。eラーニングの受講履歴が訓練の記録として綴じてある。研修記録簿と訓練記録簿が同一様式で、講義をしたのか演習をしたのかが後から判別できない。感染症と自然災害を一体で実施した記録が1枚だけあり、どちらの訓練だったのかが読み取れない。実施していないわけではないのに、記録からは実施を確認できません。
こうした状態は事業所ごとに違うようでいて、実際にはつまずき方の型が限られています。
記録に残す項目は、実施日時、参加者、感染症か自然災害かの別、研修か訓練かの別、扱った内容、そして話し合って決まったことの6つ。最後の1項目が入っていると、その記録がそのまま計画の改訂根拠になります。訓練で「連絡網に登録ヘルパーが入っていなかった」と分かったなら、それを記録に書き、計画の該当箇所を直し、更新履歴に反映する。訓練と見直しが別作業でなくなるぶん、年間の手間が減ります。
様式を分けるのが難しければ、一つの様式に区分欄を設けるだけでも足ります。感染症/自然災害のチェック欄と、研修/訓練のチェック欄。この二つがあれば、一体実施をしたときも、何を実施したかが記録から読めます。

新規採用時の研修は、サービスによって義務の重さが違います
回数と同じ場所に、もう一つ書き分けがあります。新規採用時の研修です。
居宅サービスの解釈通知では、定期的な教育を開催するとともに、新規採用時には別に研修を実施することが「望ましい」と書かれています。訪問介護も通所介護も、短期入所も同じ扱い。ところが特定施設入居者生活介護では、同じ位置の文が「実施すること」で終わります。介護保険施設の場合は回数の記載そのものが「年2回以上及び新規採用時」となっていて、新規採用時が回数と一体になっています。
語尾が一語違うだけですが、意味は変わります。居住系と施設系では、期中に入職した職員が研修を受けていなければ、それだけで基準を満たしません。在宅系では努力義務にとどまります。
とはいえ、在宅系にとって軽い話かというと、そうではありません。年1回の集合研修しか設けていない事業所では、4月に研修を実施すると、5月以降に入職した職員は翌年3月まで一度もBCPに触れないまま働くことになります。11か月のあいだ、災害時に自分が何をするか知らない職員が現場に出ている。訪問介護であれば、その職員が単独で利用者宅にいるときに発災します。
しかも介護の現場では、人の入れ替わりが年度の区切りに合いません。ここで見落とされやすいのが登録ヘルパーです。訪問介護の条文は「登録訪問介護員等を含めて、訪問介護員等その他の従業者に対して、必要な研修及び訓練を実施しなければならない」と書いていて、登録ヘルパーを名指しで対象に含めています。通年で採用があり、稼働日も人によって違う。年1回の集合研修に全員を揃える設計は、この条文が求める範囲をそもそも満たせません。
同じ条文には、研修及び訓練の実施にあたっては全ての従業者が参加できるようにすることが望ましい、という一文も入っています。現実的な形は、年1回の集合研修を軸に置いたうえで、入職時のオリエンテーションにBCPの項目を組み込むことです。1時間もかかりません。自分が最初に誰へ連絡するのか、安否確認の手段は何か、事業所が使えないときはどこへ行くのか。この三つを渡して、渡した記録を残す。個別に実施した記録があれば、期中入職者の空白は埋まります。
このとき、入職時研修の記録も研修実施記録として綴じておきます。集合研修の記録だけを保管し、個別の説明は口頭で済ませている事業所が多いのですが、記録がなければ、運営指導の場で実施の有無を確認する手段がありません。様式は集合研修と共通で構いませんし、参加者欄に1名だけ書けば足ります。
その集合研修を何時間で、どんな順序で組み立てるかは、研修プログラムの設計そのものの話になります。
一体実施は、どこまで認められるのか
回数を数えていくと、年間の本数がそれなりになります。感染症と自然災害の両方について、研修と訓練。ここに感染症対策の強化として求められる研修・訓練や、非常災害対策の訓練が重なる事業所もあります。
解釈通知は、この重複をかなりの範囲で認めています。感染症BCPの研修は、感染症の予防及びまん延の防止のための研修と一体で実施して差し支えない。訓練も同じです。感染症対策の研修とBCP感染症編の研修を別々に開く必要はありません。
通所介護では、さらに踏み込んだ書き方になっています。災害BCPの訓練を非常災害対策に係る訓練と一体で実施してよい。つまり、既存の避難訓練の後半に業務継続の検討を足せば、災害BCPの訓練を兼ねられます。加えて、感染症BCP、感染症の予防及びまん延の防止のための指針、災害BCP、非常災害に関する具体的計画の四つを、それぞれに対応する項目を適切に設定していれば一体で策定することも認められています。書類の数を減らせる余地が大きい。
訪問介護では、この余地が狭くなります。非常災害に関する具体的計画の策定義務がないため、災害の側で一体化できる相手がいません。一体化できるのは感染症BCPと感染症の指針だけ。同じ在宅系でも、通所と訪問で事情が違います。
訪問介護は職員が事業所に集まらない前提で計画を組むことになるので、訓練以外の項目でも設計が変わってきます。
ただし、認められているのは実施を一体にすることであって、記録を一体にすることではありません。1回の研修で感染症対策とBCP感染症編の両方を扱ったなら、記録の側は二つに分けて書く。90分のうち前半60分が標準予防策、後半30分がBCP感染症編の職員体制、というところまで残しておけば、どちらの義務も果たしたことが1枚の記録から読み取れます。時間配分を書いておくと、翌年の計画を立てるときにも使えます。
なお、感染症の訓練と自然災害の訓練を1回にまとめて両方1回分と数えてよいかは、解釈通知に明示がありません。想定を両方含めた訓練を1回実施した場合の扱いは、自治体によって判断が分かれます。分けて実施すれば疑義は生じないので、迷う場合は分けるか、指定権者に確認してください。
回数を満たしていないと、何が起きるのか
減算を心配される方が多いのですが、ここは切り分けが要ります。
令和6年度のQ&Aは、業務継続計画未策定減算の対象を、感染症か災害のいずれかまたは両方のBCPが未策定の場合と、計画に従って必要な措置が講じられていない場合としています。そのうえで、周知・研修・訓練・定期的な見直しの実施の有無は、この減算の算定要件ではないと明記されています。研修や訓練を実施していなくても、それだけで減算にはなりません。
ただし同じQ&Aは、未実施なら運営基準違反にあたるとしています。減算されないことと、問題がないことは違います。運営指導で指摘され、改善報告を求められる。基準違反の状態が続けば、勧告、公表、命令と段階が上がっていきます。
もう一点、遡及の扱いを知らない事業所が多い。減算は、行政が運営指導で見つけた時点からではなく、基準を満たさない事実が生じた時点まで遡って適用されます。令和7年10月の運営指導でBCPの未策定が判明した訪問介護事業所であれば、令和7年4月まで遡る計算になります。半年分の返還が生じることになります。
回数の話に戻すと、実務上いちばん危ないのは、実施しているのに記録がない状態です。減算の要件ではないので届出には影響しませんが、運営指導では実施の有無を記録でしか確認できません。年1回を確実に実施し、その記録が研修と訓練、感染症と自然災害の別まで書き分けられていること。これが揃っていれば、回数についての指摘は生じません。
自事業所の計画が、この水準を満たしているかどうか。
介護BCP教育研究所では、BCP文書のなかにある矛盾と空白を洗い出すBCP診断を行っています。研修・訓練の記録様式が実施の証跡として機能しているか、計画に定めた回数と実施実績が一致しているかを、サービス種別ごとの要件に照らして確認します。詳しくは診断サービス(https://kaigo-bcp.jp/shindan/)のページをご覧ください。


